『直感力を高める 数学脳のつくりかた』—努力が才能をつくる

 

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題名はまあアレですが、とても良い本です。数学に限らない、学習や問題解決全般(英語学習や、レポートの執筆など)における秘訣が惜しげ無く述べられています。当方(東大医学部)が自分なりに編み出した(つもりになっていた)勉強法もかなり載っていて、少し悔しいくらいです。

僕自身の復習も兼ねて、主な学習のコツを列記してみます。この、間をあけて反復する、ということも、学習のコツのひとつです。

習慣を役立たせる

努力ではなく習慣によってこそ、目標を達成できる。これが、個人的に最重要だと感じていることです。たとえば、毎日3食摂ることに驚く人はいないでしょうが、よく考えてみればこれはなかなか大変なことです。でも、習慣になっていれば何の苦労も無く達成できます。この本のアドバイスも、少し面倒なことも多いですが、(自分に可能な範囲で)習慣にしてしまえば、学習や問題解決の効率がグッと上がることは間違いありません。

努力というのはたいていある程度の無理をするということで、長続きはしない、はずです。ちょっとしたことでも「よくやった!」と自分を励ますようにすれば、「後天的勤勉性」が習慣として身につくようになります。

集中と脱力を併用する

本書全体を通して強調されるのが、脳の働きには「集中モード」と「拡散モード」の2つがあるということです。それぞれ「深く狭く」と「浅く広く」という感じでしょうか。集中して問題を考え抜いたり、明文化したりすれば、後は散歩したり寝たりして脱力している間に脳が勝手に解決策を考えてくれる、というのが著者の主張です。経験した事があれば言われるまでもない、という話ですが。

この「脱力/拡散」モードでは、小説を読んだり違うジャンルの学習をしたり、ゲームをしたり音楽を聴いたり、本当に何をしていても大丈夫なのですが、「集中」するのには多少の困難が伴うかもしれません。オススメなのは、本書ではポモドーロ・テクニックと呼ばれている、事前に時間を定める(15~25分くらい)やり方です。重要なのは、その決めた時間は目の前の問題・勉強に集中し、トイレにも行かないし周囲のノイズも完全に無視する、ということです。日本に住んでいるような健康に恵まれた人であれば、15~25分くらいであればできるはず。あとは、集中した時間の後は、必ず休憩時間を取り、拡散モードを働かせる事も大切です。シンプルな方法ですが、効果は絶大で、これを一日3セットからこなせば、自分の能力にビックリすること請け合いです。

思い出す

例えば本を一節、一章、一冊読んだら、本から顔を上げて、その内容を頭の中で反芻してみます。これは僕の私見ですが、本から眼を離し、15秒ほどおいてから、内容を思い出してみると良いです。この作業は、自分なりに内容を要約/取捨選択するためでもありますし、本から得る情報を自分の頭の中だけに置く時間を意識的にとり、分かったつもりになるのを防ぐためでもあります。

更に、学習から1日とか1週間とかの間隔をあけた後、トイレやお風呂や散歩の最中に内容を、とくに大事な箇所だけでも、反復する、ということも効果的です。 

チャンクを作る

人間が作業記憶で扱える事というのは7±2個程度である、という話は有名です。複数の事柄をチャンクにする(ひとまとめにする)ことで、処理能力や発想力は向上させられます。知識や技術を肉体に染み込ませる、というイメージです。

その際に重要なのは、学習においてすべてを丸暗記したりあらゆる問題をこなしたりするのではなく、一番大切なポイントや自分にとって最も難しい問題に絞ってくり返し取り組む、ということです。

先延ばしを避ける

これは間違いなく最重要かつ最難関でしょう。本書の98ページによれば、嫌な勉強をすることを想像するだけで、本当に痛みを覚えるそうです。

ですが、多くの人にとっては、時間とエネルギーが多く消費されるのは、作業そのものよりも、課題に取り組むのをイヤがることの方だと思います。案ずるより産むが易し、ということを自分に言い聞かせ続けるのが、ひとつのコツです(139ページ)。もうひとつ重要なのは、不得意/面倒なことも、上達するにつれて楽しめるようになる、ということです。あるいは、楽しめるように自分の脳/習慣を作り替えてやらなければなりません。

 

上に述べた「学習のコツ」を一言でまとめれば、「自分の目的に合わせて自分自身を作り替える」ということです。だから、一番大切なのはきっと、自分の目的を知ること、です。

本書の63ページでは、創造的になるには恐怖心にうまく対処することが大事だと、前置きした上で、Facebookのポスターの文句が紹介されています。「怖くなければ何をやってみたいか」